【シリーズ:ブック・リヴュー】「歌集いく山川」と「斎藤茂吉の佐渡小吟」

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かつての当館を知る,懐かしい大先輩に本を頂きました.『懐かしい』といっても私の生まれるずっと前のお話し...

「吾妻さんが相川の羽田町にあった頃に羽茂から出張で1週間くらい滞在することがあってねぇ,だんだん日数を重ねると下着が足りなくなるんだよ(笑)」当時は島内各所から合同庁舎や税務署などがある相川へ泊りがけで仕事にいらっしゃる方も少なくなかったのでございます.

「それでパンツを洗って干しとくんだけど私もまだ若かったから恥ずかしくてねぇ,隠すように部屋の隅に干しといたの.そうしたら年配の仲居さんがね,”そんなとこに干しとかんでも皆さんやっとるように軒下に干せっちゃ”と,指さすほうを見るとね,見事に並んでたのよ宿泊客のパンツが(笑)」

「当時長野からの学生さん達が泊まってて彼らのパンツの横に私のも下げといたの.そしたら学生さん達なんか急に帰ることになって急いで準備したんだろうね,私のパンツも一緒に持って行っちゃった.それからパンツ盗まれたーって大騒ぎ(笑)一部残ってた学生さんが”すみませんすみません”って平謝りでね.それでさぁ,衣料券くれてねぇ.衣料券なんてお嬢さん(=これ私のことです)知らないでしょ,戦争中は配給制だから食料も衣料も券がないと購入できないの」

「いやぁ~それにしても懐かしいなぁ~」ととても素敵な笑顔でお話ししてくださり,この後もまだまだ『懐かし面白エピソード』は続いたのでございます.

御年92歳の藤井様より頂いたこの2冊,これから楽しみに読ませていただきます.『ブック・リヴュー』のタイトルに偽りあり(笑).読後感想はまた後日,ということで,パンツにまつわる戦時中のお話でございました.

戦争中とはいえ,旅館はごく普通の日常の風景を映しだしていたのでございます.

【シリーズ:ブック・リヴュー】太宰治の『佐渡』

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ある日のことジェットフォイル船内.“本日は波穏やにして晴朗なり”なのです.

1時間読書でもと本を開き2ページ読み終わりつつ,グーグー真っ昼間に白河夜船を漕いでおりましたら,ツンツンと.

“この気持ちよい眠りを覚ますのは誰じゃぁー”と,となりを見ると連れ合いが窓の外を指し示しておりました.その先に見えましたのが,くっきりと浮かび上がる大きな島のシルエット.

“太宰の『佐渡』だよ”と連れ合い.

寝ぼけアタマには“暫しお時間下さい…………………”と次の瞬間“わーっっっっ!”と私の叫び.

太宰治が初めて目にした佐渡ヶ島は正にこれだったのかと,合点がいきまして,先の叫びとなるのです.

太宰の『佐渡』を読んでからどうも気になっておりましたある一節があります.

【佐渡は,もうすぐそこに見えている.全島紅葉して,岸の赤土の崖は,ざぶりざぶりと波に洗われている.もう,来てしまったのだ.(中略)もう,来てしまった.けれども,誰も騒がない.(中略)船も島も,互いに素知らぬ顔をしているのである.島は,船を迎える気色が無い.ただ黙って見送っている.船もまた,その島に何の挨拶もしようとしない.(中略)島は,置き去りにされようとしている.これは,佐渡ヶ島でないのかも知れない.】

この後,太宰は狼狽しつつ,この島影が何であるのかを自問自答しながら解いていくのであります.

そして最初に太宰が佐渡と思った陸地を船は通り越し,更に見えてきた大陸を目にした太宰は以下のように表現しております.

【私の混乱は,クライマックスに達した.日本の内地ではないかと思った.それでは方角があべこべだ.朝鮮.まさか,とあわてて打ち消した.】

そして太宰の抱いたこの何とも奇妙な疑問は,ある親子の会話によって解き明かされるのです.このあたりのくだりがなかなかおもしろいのですが,興味をお持ちになられた方はどうぞ「筑摩全集類聚版太宰治全集」をご覧下さい.そう言えば,青空文庫にも無料でありますね.

大変長くなってしまいました.結局“佐渡は大きいが,何もない”と書いてあったような気がします.

そうなのです.

太宰も”朝鮮はたまた内地?”と素っ頓狂な推測をするほど大きな,そして何もないことがこの上なく贅沢と言える『佐渡』を是非体験しにいらしてみて下さいませ.ヨロシクッ

【シリーズ:ブック・リヴュー】悩みも…(中略)…ください。

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最近,横尾忠則さんのブログに嵌っています。3日に1回くらいのペースで覗いていたのですが,どうやら【悩みも迷いも若者の特技だと思えば気にすることないですよ。皆そうして大人になっていくわけだから。ぼくなんかも悩みと迷いの天才だったですよ。悩みも迷いもないところには進歩もないと思って好きな仕事なら何でもいい。見つけてやってください。】という,ブログをまとめた本が出版されているとのこと.

それならばと本屋さんへ行き,「すいません,横尾忠則さんのとても長い題名の本はありますか?」と店員さんに尋ねたところ,店員さんちょっと困惑顔で「どなたのですか?」と予想外の質問に私は“横尾忠則さん”を三度繰り返してようやく店員さん気付いた様子.でも,結局そこでは購入できず,インターネット通販したのであります.だったら最初からそうすりゃー良かったのに…なのですが,本屋さんへ行って「長い題名の本」とただなんとなく聞いてみたかったのでした.

夜仕事を終え,ビールをくーっと飲み,ベッドへ潜り込み今日はどの本を読もうかなと考えページをめくるのが目下のわたくしの最大の安らぎのひとときなのであります.本は同時に何冊か読むのが常で,今日は“横尾さん”気分とか,今日は“イアン・ランキン(これまた最近嵌ってます)”でいこうとか,その日の気分で選んだりするわけでして,それも楽しみの一つです.大概2,3ページ読むとすーっと眠りに入っていたりするのですが.

横尾さんは不眠症とか.

文化人はやっぱり不眠症!ってな感じで,私もたまには“不眠症なの”って言ってみたかったりで「昨日は眠れなくてちょっと睡眠不足」とか言ってみるのですが,「眠れなくてもいびきはかけるんだー」とダンナがぼそり.

ですから言ってみただけです.