昨年1月,小泉首相の決裁により「観光立国懇談会」が設立され,観光がわが国の産業活性化戦略の目玉として浮上してきました.首相は自身のメルマガの中で次のように述べています.
「活力ある国づくりのうえで,私は日本の観光資源に注目しています.日本から海外への旅行者は年間1,600万人なのに,外国から日本にくる旅行者は500万人.フランスへの旅行者7,600万人,中国への3,300万人に比べてもずいぶん少ないのが現状です.海外の人に日本のよさをもっと知ってもらい,たくさんの方々に日本に来てほしい.日本に住んでいる方々にも,改めて国内の観光資源の豊かさを見直していただきたいと思います.2010年には日本を訪れる外国人を倍増させることを目標にしています.」
観光立国宣言に至った理由として,まず1.観光が21世紀における顕著な成長産業となることが見込まれること,そして2.少子化による定住人口減少が引き起こす税収不足を交流人口の増加で補うことがあげられています.この国策は,観光資源が豊富な佐渡にとって,現在の閉塞状況を打開する起死回生の一打となる可能性を秘めています.
佐渡,延いては日本に多くの人をひきつけるためには,個々の努力により,まずそこを魅力あるものにすること,それから,交通アクセス体系の整備が重要でしょう.国策とも合致する地域活性化の観点から,交通基盤の整備に絞り,わたくし宿六の考えを以下に述べさせて頂きたいと思います.
20世紀の私たちは基本的に「モノ」の豊かさを中心に追求してきました.特に戦後は経済復興・経済発展にその持てる勤勉さを傾注することで,所得が増え,欲しいモノを手に入れ,あらゆる物質的な豊かさを享受してきました.そして行き着いた先が,所謂,バブル経済です.
実体とかけ離れた膨らみはいつか必ず収縮します.バブル崩壊を一つの契機として,経済の停滞にとどまらず,実に様々な問題が吹き出してきています.環境破壊,人心の荒廃,凶悪犯罪の増加… 私たちが目的にしてきた「工業社会(=物質文明)」追求の限界が見えてきたと言えるかも知れません.
そして21世紀.観光立国宣言にもあるように,今世紀は「大交流時代」になると言われます.たくさんの人々がふれあい,多くの情報を分かち合う中で,新しい文化や産業が生まれる交流社会… この大交流時代,人々が目的に合わせて自由に選択することができる各種の交通基盤を整備することには大変重要な意味があります.
私たちは既に,高速ジェットフォイルや大型カーフェリーなど海路交通手段を持っています.今後も,新潟との距離,あるいはその簡便性や大量輸送の観点から,海路が基幹交通としての役割を担うことは間違いないでしょう.
もっとも,佐渡は離島であるがゆえに,それ自体で生活圏を形成することが大変困難であり,外地との交流なしには存在することができません.島の経済や島民の生活の向上は,ひとえに交通体系の利便性の向上にかかっていると言ってもいいでしょう.日本でいちばん大きな島・佐渡に,長距離を高速で,かつ年間を通じて安定的に運行できる空路を開設することは悲願です.海路とは利益相反関係ではなく,相互補完関係と考えるべきですし,相乗効果も期待できるでしょう.
IT化の進展・通信技術の急速な発展により,通信による交通の代替がある程度可能になりました.ビデオ会議などはその一例です.しかし,例えば,現在盛んなネット通販に於いても,「物理的な商品を電送する」などというのは,今なおSFの世界の話に過ぎず,物流の媒体は専ら航空機・船・車両等の既存交通機関に委ねられます.
また,私たちは日常的にインターネットを通じて,世界中の情報へ瞬時にアクセスしていますし,ある程度は情報の送り手にもなることができました.しかし,情報の核心部分は人と人とが直接会って初めて交流しうるものだと思います.この部分にこそ,これまで以上に大きな価値が見い出されるのではないでしょうか.昨春,新潟・万代島にオープンした朱鷺メッセも,まさに時代の要請を先取りしたものと言えます.
技術革新が進むと,人々は精神のバランスをとるかのように,ふれあいや交流を求めるようになると言われます(=High Tech & High Touch:パソコン通信時代に言われた「オフ会」もその例).そして,上手で豊富なコミュニケーションは私たちの心を癒します.交流が心の充足を生み,すばらしい社会への足がかりの一つとなりうるわけです.
政府の指摘にもあるように,少子化・高齢化も加速度的に進んでいます.佐渡の定住人口も減少傾向にあることは否めません.しかし,これまで以上に人々がさまざまなものを求めて頻繁に移動するようになる,つまり交流人口が増加するとすれば,この波及効果には非常に大きなものがあることでしょう.実際政府が考えているのは,この交流人口増加に伴う,税収の増大です.またある国では国際空港の建設により交流人口のみならず,定住人口が増えたというケースも報告されています(竹村健一氏がオーストラリアの事例をテレビで紹介しておられました).
佐渡は,自然・文化資源にとても恵まれています.また,食物のおいしさも格別です.より多くの方々にこのすばらしい佐渡へお越し頂きたい… そして交流の機会が増加すれば,地域は必ず活性化しますし,その対象は観光業内にとどまるものではありません.
また交流は伝統文化を破壊するものでは決してありません.伝統に新たな価値を加え,さらに新たな文化を創出していくものであることは歴史の様々な事例が証明しています.独自性の喪失や都会との画一化を促進する懸念も指摘されますが,これは私たち一人一人が佐渡人としての誇りと自覚を持てるかどうかにかかってくることでしょう.大交流時代においては一人一人,地域地域のアイデンティティの確立こそが大切だろうと思います.
空港と自然環境・地域社会との関係も考えなければなりません.空港と自然との共生・空港と地域社会との共生が今後ますます重要になり,環境に優しいことがこれからの空港の必須条件であると世界中の識者が指摘しています.特に,佐渡は朱鷺の島です.野生化に向けての計画も着々と進行しています.他の動植物についてもその生息状況を調査し,移植や増殖をして保全する必要性が出てくると思います.空港の建設地域選定も含め,この「環境に優しい空港(=エコポート)」に私たちの英知を結集させる必要があります.
もう一つ,夢は大きくということで付け加えますと,ジャンボが就航可能な3,000mの滑走路をもった,しかも国際空港の建設ということになれば,更にすばらしい展開が期待できるでしょう.近隣諸国と直に結ばれることの効果には計り知れないものがあります.韓国・済州島のように,国際会議場の建設なども視野に入ってくるかも知れません.離島であることのメリットの一つは,セキュリティー確保のためのコストが低くすむことです.
これらは一概に荒唐無稽な話とも言い切れません.例えば,英国領西インド諸島・グランド・ケイマン島(私たち,新婚旅行はココでした)は,面積が佐渡の四分の一程度の小さな島です.そして,こぢんまりとはしていますが国際空港を持ち,米国フロリダとの間に国際定期便が就航しています.
交通施設は,建設したからといってすぐにその効果が出てくるものでもありませんし,いま空港建設を標榜したところで,本当にその恩恵に預かれるのは私たちの子どもあるいは孫の代になってからだということは考えておかなければなりません.つまり,いま佐渡に空港をつくるか否かの判断は,子孫の時代の佐渡がどうあって欲しいかということと同値です.将来の佐渡の繁栄,子孫の繁栄をどれだけ強く希求するかが,いま私たちに問われていると言い換えられると思います.
計画をし,建設をし,それが利用されるまでには多くの時間がかかります.未来のことだからといって意思決定を未来にしていたのでは遅きに失します.佐渡の将来をどうするかは,まさに今の私たちの意思決定にかかっています.
昭和40年代以降,高速交通体系とりわけジェット空港整備を望む機運が連綿と続いていますが,いずれも総論賛成,各論反対から脱することができず現在に至っています.しかし,事態はまさに焦眉の急です.即刻この議論を煮詰めておかない限り佐渡に明るい未来はやってきません.私たちは手を拱いて佐渡が沈没していく課程を目撃する証人であってはならないと思います.
佐渡は平成16年3月をもって一市となり,行政の新しい枠組みができあがりました.そしてこの新しい佐渡市の将来を考えるのは住民である私たちです.佐渡経済の停滞に一矢を報い,生き残っていくための最後の砦がこのジェット空港だと思います.
とかなんとかごちゃごちゃ書きましたが,一日の仕事を終えて,9時にはギンザやミナミで一杯やってる自分の姿を想像するだけでもワクワクしませんか,佐渡の皆さん?